前の岩手山から1年位ほったらかしていた。ブログに書いてないだけで、山には引き続き行っている。
この間、栃木から大阪に引っ越す等大きな変化があった。車も失い楽しい山へ行きづらくなったが、唯一アクセスしやすくなった高山がある。そう、北アルプスだ。
天気も見えぬ中、8月連休を使い上高地へ向かう私。2年前の雪辱をいざ果たさん。
1.8/11 夜行バス→上高地
栃木に居た時は「東京まで出る」という余計な行程があったが、大阪からは直接行ける。北アルプスがアクセスしやすくなった所以だ。
午後にホームサウナの大東洋で英気を養い、21時に夜行バスに乗り上高地へ向かう。
座席3列、人はガラガラ。コロナは恨めしいがこういうところは有難い。
気が付いたら眠りこけていた。
ここで当初の計画を説明しよう。
8/12 上高地から涸沢へ向かう。
8/14 ①涸沢へ引き返し上高地へ戻る
穂高岳山荘へ泊る事が一つの目的だったのと、白山テント泊での重量感を加味し今回は2泊とも山小屋泊という贅沢山行を敢行。
3日目の行動は天気と自分の元気を見て決める事とした。
尚、2年前の同じ時期に涸沢小屋まで行った。その時は天気が悪すぎて、奥穂高岳に登る事なく雨の中撤退したのだった。
リベンジ戦、期待半分不安半分の出発だった。
2.8/12 上高地→涸沢ヒュッテ
5:20 上高地着。
バスターミナルでは多くの登山客が出発準備をしていた。私も飯を食べながら準備を進める。
のんびり準備し6時前出発。どんよりとした雲の下、徳沢→横尾→涸沢へと向かう。
下道3時間は相変わらず単調。大体同じ位置にサルがいるのは面白い。
時間的にかなり余裕があったので、徳沢でアフォガードを食べてのんびりと向かう。
横尾からはそこそこの登り。ガレ場トラバースのところ位で晴れ間が見えてきてテンションが上がる。
5時間半後の11:20、涸沢カール到着。2年前よりは晴れている!テンションが上がった。
前はなんだか良くわからなかった逆サイドの山もよく見える。今回はあれが常念、大天井の稜線だということが分かる。多少知識がついたと実感。
前回は涸沢小屋だったので、今回は涸沢ヒュッテに宿泊。部屋はなんと布団一枚分の個室!素晴らしい環境。
ついてからはひたすらキンドルで四畳半タイムマシンブルースを読んだり昼寝をしながら夕食を待つ。時間使いが荒い。
度々雲が切れるのを期待して外に出たが、天気はじわじわ下り坂で途中から萎えてしまった。
コロナの影響で談話室も閉鎖中。山小屋での究極の暇つぶし、「岳」を読むという退路も断たれてしまった私は、四畳半どころか一畳もあるかないかの個室に籠るしかなかった。
17:00、美味しい夕食を食べ就寝。日付が変わったくらいに外に出たら、若干の星が見えて気が紛れた。
尚、この間に四畳半タイムマシンブルースは読み終わってしまった。
私の大学生活に深々と突き刺さる四畳半神話大系と、サマータイムマシンブルースの親和性には中々満足できたのだが、ちょっとボリュームが少なかったな…。
3.8/13 涸沢ヒュッテ→穂高岳山荘
真っ白な雲に包まれて朝食を食べる。
と書くと中々良さそうだが、実際は白いもやもやの中で景色も見えずに味気なくパンを齧るのだからやっていられない。
この日は朝から雨。天気が持ち直すまで粘ろうと、朝の8時まで部屋でゴロゴロしていたが、流石に堪えかねて一路ザイデングラートへ向かう。
これでも雨が止んだ時を狙ったのだが、登り詰めるにつれて雨が強まった。
外は寒いのに体は熱いという悪循環、悩んだ末半袖の上にシェルジャケットを羽織り登っていく。
パノラマコース(何も見えない)を歩いて1時間、ようやくザイデングラート取り付きへ到着。
巨大なワニの顔がお待ちかね。よく見るとワニの頭の上を人が登っている。これがザイデングラートか。雨脚強まる中、岩をがしがしよじ登る。
確かに道は狭く歩き辛い。もはやクライミング。雨で気持ちはさらに落ち込む。滑らないように注意して歩く。
1時間弱登っただろうか。何やら人がごみごみしている。
電話しているお兄さんと、支えられてキョロキョロしているおじいさんがギリギリ道を避けて立っていた。よく見るとおじいさんの頭部から血が出ている。滑落したのか!
緊張しながら接近すると、上から大量に人が降りてくる。先陣を切るお兄さんが一言「兄さん、そこで待てるか??」
どうやら私は待機するしかないらしい。岩の間にすっぽり収まり、団体さんが通り過ぎるのをひたすら待つ。
一行は登山ツアー客で、2人の山岳ガイドが先導していた様だ。
滑落したおじいさんは意識はしっかりしているものの、腕に結構なケガを負っているらしい。折れていたかも。時折顔をしかめながら、「何が起こったか分からない」みたいにボケっとしている、様に見えた。
ツアー客はおじいさんおばあさんの大所帯だった。今日どうしても移動しなければならなかったのだろう。雨の滑りやすいザイデングラートで、よくもまあやるもんだと呆れを通り越して応援する気持ちさえ芽生えてきた。
最後の登山者を見送り、ケガをしたおじいさんの無事を願いながら岩をよじ登った。
一体俺は何をやってるんだろう、何故こんなところに来ちゃったのだろう、今年も穂高はあかんのか…と暗澹とした気持ちも連れて。
この滑落、明日は我が身だと身に染みた。と思っていたが、この後私自身結構ひどい目に(自分のせいで)遭ったので、全然身に染みてなかったと反省している。
10時過ぎ、ようやく穂高岳山荘へ到着。
着くころには全身びしょびしょ。ズボンもじんわり湿り、パンツまで濡れていた。(前傾するとズボンの隙間に雨水が流れてくるからだと気づいたのは後のこと。)
雨具、結局信用ならないのでは?と思うがたまにしか使わないので判断が難しい。まずは脱げるところまで脱いでチェックイン手続きを行う。
今日の部屋は「浅間山」。この部屋も隣と間仕切りがある空間。北アルプスの山小屋はクオリティが高い。
晴れたら眼前の奥穂高岳へ突撃しようと思っていたが、天気は中々晴れない。
部屋着に半ズボンしか持ってこなかった事を後悔しながら、ラウンジのストーブで暖を取る。
横に座っていたおじさん、よく見ると大阪のバスターミナルでちょっと話した人だった!びっくり。
涸沢にテント張って今日は穂高岳山荘に泊まり、明日帰るとの事だった。もう奥穂高岳にも登ってきたとの事。やるなあ。山の楽しみ方も色々だなと思いながら、乾燥室の服の様子を伺いながらキンドルでワールドトリガーを読みふける。山小屋で読むと面白い漫画、私はワールドトリガー、メイドインアビス、ゆるキャン△をおススメする。
14時半くらいだろうか。なんと雲が切れてきた。体力も有り余り晩御飯まで結構余裕がある。そこそこ乾いた上着とズボンを急いで着て、急ぎ山頂へ向かう。
コースタイム50分だったが、空身のお陰か30分で登頂。奥穂高岳、日本で3番目に高い場所に立てた事に感動。
既に数名いた学生と、爆風の中雲が切れるのを待つ。
雲が切れた!そこには急峻な岩の山々が鎮座していた。景色に思わず声が漏れた。学生と謎の一体感が生まれる。
他方目をやると、巨大な怪獣の背びれがぬっと姿を現した。これがジャンダルム。よく見ると標識が立っている。これを乗り越える人が居るんだな…と驚嘆。
しばらく景色を眺め、再度雲に覆われたため山荘へ戻る。はるか眼下には涸沢のテント場が見える。下から見上げていた、岩と岩の間に自分がいる事を実感した。
戻ってくると、嘘のように雲が取れた。向かいの大天井岳方面がよーーく見える。岩に覆われた穂高側と違い、緑と土に覆われたなだらかな稜線が非常に楽しそう。
そこからは、もくもく成長する入道雲を眺めながら夕食を待つ。
18時半、日が沈む。午前中が嘘の様な幻想的な光景に、本当に来て良かったとジーンときた。
夕食の時、前に居たおじさんと話して奥穂→前穂→重太郎新道→上高地ルートで帰る事を決めた。
「涸沢岳通って北穂高行くのどうですかね~」と言ったら「あんまり下手なことは言えないけど、前穂の吊り尾根の方がまだ怖くないかなあ」と言われ、改めてコースを検討。
実際涸沢岳から北穂高へ向かう道は危険箇所の連続で、コースタイム的にも焦ってようやく15:40のバスに間に合う感じだったので、比較的危険マークが少なくコースタイム通りいけば帰りに間に合う前穂に行く事にしたのだった。
19時位、就寝。23時位に目が覚め外に出ると、天の川の様なベールと一面びっしりの星空が出迎えてくれた。
自分の目に見えるものなんて、世界のほんの一部でしかない事を実感した。
4.8/14 奥穂→前穂→重太郎新道→上高地→大阪
4時、日の出前に起き出し涸沢岳へ向かう。ライトを頼りに、青い世界を一人歩く。
30分程度かかり、涸沢岳山頂に到着。日の出を待つ。
4:45位、空が赤く染まり始める。
槍ヶ岳がはっきりと見える。上高地に来て、ようやく拝むことが出来た。屹立する槍の穂先は、どんな山から見てもそれとわかる憧れの象徴だった。
本当に北アルプスに来たんだなと、ようやく実感できた。近づいて一層威厳を増す槍ヶ岳、次は是非登りたい。また新しい目標が出来た事を嬉しく思う。
奥穂高岳も赤に染まる。涸沢は、さぞ美しいモルゲンロートだったことだろう。ちょっと悔しい。今度は涸沢テント泊したいね。
5時過ぎに美味しい朝食をたっぷり食べ、6時に小屋を出発、まずは奥穂高岳へ向かう。
奥穂高岳。驚きの晴れ。みんな小屋とのピストンだろうか。山頂では写真待ちの列ができる盛況ぶり。
空と地表の間にそびえる槍。圧倒的存在感に感激。
同時に、涸沢岳から北穂の道やべーと再認識。行かなくてよかった。
気を引き締め、吊り尾根そして前穂高岳へ向かう。
見えている尾根を歩いていく。中々怖い道だった。思い返すと、最初の鎖が一番怖かったな。足がつけるか分からない恐怖は武尊山以来だ。
絶対生きてワールドトリガーの続き(21巻位)を読むんだ、と思いながら尾根を歩いた。
小屋を出て2時間、紀美子平へ到着。荷物をデポして前穂高岳へ登る。この道も中々危なかったな。岩稜の経験値不足を実感。
山頂に着いた。北アルプスの山々を見晴らせる素晴らしい光景。パノラマ写真を取ったが本当に圧巻。こんなに晴れるとは思っていなかった。憧れた山に自分が居られるのは本当に嬉しいのだ。
来た道(奥穂高岳)を見返す。ここに道がある事が驚きだ。
一休みした後、9:00紀美子平を出発。北アルプス屈指の急登という重太郎新道を下る。
これが下ったルート。お分かりいただけるだろうか。なんと重太郎新道に入って早々、コースを間違えてしまった。
最初の鎖を下り終えた直後、矢印に従って順路に入った、つもりだった。
やや踏み跡のある、ガレガレの谷筋だなあと思いながら下っていた。
人もいないし、目印もないし、本当にこれ歩かせるのか??でも重太郎新道は激坂というから、こういうものなのか…しばらく葛藤しながら、いよいよこの道はヤバいぞ、と思ってスマホを見ると上記の状態。コースを外れている!
分かった瞬間の焦りは今でも思い出せる。落ち着け落ち着けと自分に言い聞かせ、来た道を慎重に登り返す。
登り返すのもヒヤヒヤだ。登山道でないという事は、いつ崩れてもおかしくない。
自分が落ちないよう、岩も崩さないよう、慎重に来たルートを登り返した。
絶対生きてワートリの続きを読む。この山行はワートリに命を救われた。
格闘した時間はトータル20分程度だったと思う。ようやく〇印のある鎖の直下に戻ってきた。思い返すと20分だが、この山行で最も長い時間に感じられた。
その後おろおろと正しい道を探すが何故か見当たらない。後続の人が来ているから、一緒に道探して下ろうか…等思っていたら、急に下に行く道を発見した。
見つけてからだと、非常に分かりやすい鎖の下りだった。何故これで間違えてしまったのだろう。ショックを受けながらも下っていく。
正しい道に入ってからも重太郎新道は危険だった。鎖がある方が安全で、何もない所の方が危ない。ガレてるし砂っぽいしで滑りそうになるが、滑ったら結構洒落にならない落ち方をするだろうという道。鹿が通れるから人も通れるだろうと道を開いた重太郎にアホかと悪態をつきながら下っていく。
途中の景色はゴールの上高地から乗鞍岳まで見通せるグッドビューだったが、同時に先行きの長さを感じてまたげんなり。
それでも結構すれ違う人が居たから驚きだ。頑張りましょうと声掛けながら下っていく。
二時間後、岳沢山荘に到着。結果的にコースタイム通り下ってこれたのかと胸をなでおろす。
下り降りてきた道を振り返りながら、無傷でここまでこれた事に感謝して休憩。
この世の全てに感謝していた結果、足を挫いたという大学生にテーピングテープを全部あげちゃう位には気が大きくなっていた。その結果めっちゃ元気になった彼に颯爽と置いて行かれたのも面白かった。
岳沢を11:30位に出発。最後はいつもの登山道という感じ。無心で下っていく。
13時前位、岳沢湿原到着。ここまでくると最早登山客はいなくなり、観光客ばかりとなる。
後は平坦な道を歩いて河童橋に到着。山行は無事終了した。
上高地には観光客がたくさんおり、なんだか違う世界に来てしまったなと若干悲しくなった。
昼飯を食べようと思ったが、ぼったくり価格の定食にげんなりして結局ビールと行動食のナッツで空腹をやり過ごした。
15:40までアイスを食べたりワートリ読んだりしながら時間をつぶし、バスで大阪まで帰る。これにて3日間の登山は終了。無事自宅に到着した。
5.振り返り:山とケガと道迷い
今回の山行で、ケガをしている人を3人位は見た。
①ザイデングラート滑落おじいさん
②穂高岳山荘で足を治療されていた人(後ろ姿のみ、詳細不明)
③足挫き大学生
歩いてみて、北アルプスは難しい山だと実感した。細い道、岩登り、荷物は必然的に多くなる…等踏まえると、通常以上にリスクが大きい事は明らかだ。
ケガをしないために、余裕を持つ、天気をよく見る、道をしっかり把握する、水食事を十分摂る、何より慎重に!といった基本姿勢を一層守らねばならない。
道迷いについて、岩稜でのコースファインディングに自分が不慣れな事を痛感した。
そもそも、奥穂高岳に行く途中でも若干道を間違えた。目印がなくても、人の入った雰囲気を感じて進んだ結果だった。フラグは立っていたのだ。
間違うべくして間違った今回の山行。以下の点を肝に銘じ、山を歩こうと考えた。
①目印確認を怠らない。
岩稜ではほぼ必ず目印がある。律儀に探す。
②地図や事前リサーチから正しい道を判断していく。
③私が危険と思う道は多分登山道ではない。
ガレていて岩がボロボロ落ちる→人が通っていない。
アクロバティック、再現性のない登り下りを要求される→登山道として不適切
④地図をよく見る。GPSが生きている状態キープがベスト。
⑤間違ったときこそ落ち着く。できる事を一個ずつやる。ゆっくりでいいから、失敗しない。
6.振り返り:北アルプス
色々と反省が多い山行だったが、この晴れ渡った北アルプスを歩けたことは素晴らしかった。雨の中頑張った甲斐があった。一見無謀なことにも飛び込んでいく方が、得られるものがあると実感。
これを糧に、引き続き北アルプス探訪を進めたい。次はテントで。
以上